「歯周病を予防している人は認知症になりにくい。」日々の診療経験からこうした実感をもつ歯科医師は、多いかもしれません。
「歯周病にかかっていない人は歳のとりかたがゆっくりで、健やかに年齢を重ねていらっしゃることが多いな。」と。
「歯周病と認知症が関係している」だなんて、意外に感じるでしょう。
でも、こうした歯科医師の実感を裏づける臨床研究は年々次々と報告されてきました。
- 重度の歯周病を患う人は認知症になりやすい
- 歯周病にかかっている認知症の患者さんは、認知症の症状の進行が速い
さらに驚きの研究報告も発表されました。
アルツハイマー型認知症で亡くなった患者さんの脳内から、歯周病に最も関係する「Pg菌」(ポルフィロモナス・ジンジバリス菌)が発見されたというのです。
ただ、こうした臨床現場から重要な報告があっても、歯周病が認知症の発症にどう関与しているのか、その具体的な因果関係やメカニズムはなぞに包まれていました。
超高齢社会を迎え、国を挙げて認知症対策に取り込んでいる日本の皆さんの健康長寿に役立てていただきたいです。
厚生労働省がホームページに渇載している資料には、今後認知症の高齢者はさらに増加し、2025年には約700万人に達するとの推計が出ています。これは大変な数字だそうです。
しかし、「発症を5年遅らせることで、アルツハイマー型認知症患者を半減できる。」という推算もあり、多くの人が歯科で歯周病予防をはじめれば、もしかしたら未来を変えることができるかもしれません。
認知症の原因となる疾患
なぜ歯周病菌が脳にまで悪さできる?
お口の病気と体の病気は別だと思っていませんか?お口と体、脳は血管でつながっているのでたかが、歯周病と油断できません。
歯周病を引き起こす細菌が、なぜ脳の病気と関係するのだろうと、疑問に思う方がいるかもしれません。でも、「歯周病ってどんな病気かな」と思い出していただければ、きっと納得していただけると思います。
歯周病は、歯周病菌が引き起こす感染症です。歯の隙間や歯周ポケットのプラークに棲む歯周病菌が、歯茎に炎症を起こすことはよく知られていますよね。
では、歯周病菌が、なぜ歯の周りだけでなく、脳の病気の原因になるのでしょうか。
歯周病菌は、歯周病の炎症でできた歯茎の粘膜破れ目を入り口にして、血流に乗り、歯茎の内部はもちろん、体にも自由に取り込んでいるのです。
長い間歯周ポケットの中に溜まったプラークや歯石を掃除しないと、歯周病菌にとって居心地のいい棲家になってしまいます。
なかでも、アルツハイマー型認知症の原因物質の増加に関与するPg菌は、腫れた歯茎からの浸出液や血液が大好物。放っておくと、まるでPg菌にえさを与えて培養しているような状態になります。
Pg菌が歯茎にたくさん入り込むと、免疫細胞は必死になって戦いますが、多勢に無勢で取り込んでしまいます。
逃げおおせた歯周病菌は体内を巡るうえ、この必死に戦う免疫たちの過剰反応が、老人斑アミロイドβの増加というさらなる困った事態を引き起こすことになるのです。